彩翔イズム

松谷彩翔の詩(詞) 「人生は『修業』と『修練』。1日1日が『学校』で1つ1つの経験が『勉強』。1つ1つの『経験』、一人ひとりとの『出会い』は、宝物。」

2016年11月

あの雪の日に(2000年)

ブラウン管の中は雪深い長野の
スキーのジャンプ台。ハラダの涕(なみだ)と
「立て!立て!」の実況。 
久しぶりに部活の練習に参加した僕。
不器用だが練習熱心な君。
雪が降りだし、練習は終了。
同じ南の方角に帰る。学年が違うから、
部活でしか会わない。
自ずと会話は弾んで、粉雪の舞う広い道路を
2人漕ぎ進む。髪の毛を白くしながら。

「あれが俺の家だよ」
指さす葡萄(えび)色の家屋。こんなに近いのに、
小学校では会わなかったね。
それからずっと帰り道をともにした。
四度の転校、親の離婚と再婚。兄弟のこと。
君が打ち明けてくれたことはどれも、一言では
言い尽くせないことばかりだったね。
でも、明るく振る舞う君に、僕は勇気をもらい
胸が痛かった。

君と毎日一緒に帰ったことを、僕は忘れない。
あの雪深い、灰色の季節は。

降り積もる雪。悲しみの蓄積のように。
やがて降りそそぐ陽の光は、その塊(かたまり)を溶かし、
地へ押し込んで、運河へ流すのだろう。


膝の高さにまで達した雪。迎えは来ない。
朝は走っていたバスもストップ。
スポーツシューズを濡らしながら、
長い距離を歩いて帰ったね。
「寄っていけよ」
と振る舞ってくれた、紅茶の温かさ。
2人で渡した卒業記念樹。ピアノの『My Graduation』が
流れる中で。
完全に「幽霊」になった春の僕。
進学に悩むようになった夏の君。
僕たちの距離は広がった。

君が学校を巣立ち半年した中間テスト。
試験日に欠席し会議室で1人受ける。
後の客は、1年生の小柄な男子。
難しい問いにブツブツ反論する。
集中を損なう僕。
でも、聞き覚えのある声に、覗き見る
パーテーションの向こう。
ジャージの同じ場所に小さい穴。
「もしかして・・・」
声をかけ、2人早くテストを終わらせては、
語り尽くした1日。
無邪気なところがそっくりだな。
「兄ちゃんは、どうしているんだ?」
「部活で毎日帰るのが遅い。土日も早く出ていく」

君と毎日一緒に帰ったことを、僕は忘れない。
あの雪深い、灰色の季節は。

降り積もる雪。涕の塊のように。
やがて降りそそぐ陽の力は、その冰(こおり)を粉砕し、
虹色に昇天させて、歓喜へ導くのだろう。

弟の横顔を見て思い出す、君のおもかげ。
南の丘を眺めて思い出す、あの雪の日。

また、いつか会おう。初めて雪の降った、次の日にでも。
 

走れ!(1999年)

町の最南端の消防貯水池は、まだ、
陽が昇ってまもない。通学班の集合場所。
1年生から6年生まで1列に並んで出発。
黄色い小旗をランドセルに挿して、
最後尾を歩く僕。
安全確認は、高学年の役目。

北へ向かう朝の通学路は、遠く街を望む
一本道。目の前には広大な田畑。
街の向こうには大きな山が見える。
真っ青な空と強烈に吹き付ける冷たい風。
「赤城おろし」に立ち向かう、冬の日のRoad。

3.5キロ歩いて到着した学校。毎朝恒例の
全校マラソン。
200メートルトラックを5周。校舎の拡声器からは
『負けないで』。
内側の50メートルトラックを走っている低学年が
楽しそう。
吐き出す白い息に、溢れ出して流れ落ちる汗。

土曜の朝はロードレース。
トラックを2周して校庭の外へ出る。
100メートルずつのなだらかな下り坂と
平らな舗道。300メートルの地獄の上り坂。
校庭に戻って残り3周の1.5キロ。

『負けないで』が『モルダウ』に
変わってる。
親友のヤス。腕相撲では誰にも負けないあいつ。
持久走では僕と賞状のボーダー20位争い。
敵意剥き出しのDead Heat。
野球少年、ケイタは余裕の走り。
サッカー少年、トモくんは脚が綺麗。
柔道少年、ヒロさんは遅くないか?
学年で最重量。
プラモ大好き、カズは息を切らし、
ヴァイオリンを習うシゲは、マイペース。

1.5キロはきついよな。
3.5キロ歩いてきたあとの1キロも。

半袖短パン。ダサい学校ジャージは着たくない。
外気の冷たさも吹き飛ぶぜ。
霜柱を踏むのが気持ちいい。

でも、やっぱり・・・

1.5キロはきついよな。
3.5キロ歩いてきたあとの1キロも。

1時間目の鉛筆。手が悴(かじか)んで握れない。

おめーのことなんか知らねえ(1998年)

自転車置き場にタバコの吸い殻。
「きっと、あいつだな」
即座に思いつき脳でつぶやく、朝8時30分。

擦れ違いざまにマスカットの香り。
「ガムを噛んでるのかな」
甘い味が舌の奥に蘇り、吸い寄せられる午後4時。

正義ぶった迎合主義の奴の作文。「A君」の常連。

自転車に名門男子高の校章シール。
同じ色の無地シールで番号を隠す。
「クマタカ(熊高)の近くでパクってきた」だと?
廊下の消火器を持ち出し、
盗んだ自転車を乗り回す土曜の放課後。

町を越えて田園地帯の粗大ごみ置き場。
自転車を投げ捨てるお前。
持参した消火器を撒き散らして、
「一丁上がり」
俺を連れてきたのは、帰りの足か?
荷台に跨り「からあげ食おうぜ」と肉屋の手前。
右手には五百円。
「ぬかりがないな」

悪戯の天才。
でも、ろくなもんじゃねえ。


明日は林間学校。男子トイレで制服と体操着を
脱ぎ捨てたお前。
全裸で壁のタイルとDK。汚いな。
初日の夜。班長の俺と同じ班のお前。5人しか
いないのに、12人分のカレールー。
隠し味は、松ぼっくりだ。焚火に投げ込んだ
平らな石が破裂して、地面に墜ちるカレー鍋。
悲惨だな。

「冷めたら動物が食べるかな?」
女子の班員。
こんな辛きゃ、タヌキだって食わないさ。
綺麗に炊けたライス。
カレーをもらい集める惨めな5班。
飯盒のおこげは醤油味。

帰郷前夜のキャンプファイヤー。
「WAになっておどろう」で
ケツを出してタコ踊り。

爆笑の周囲に唖然茫然の俺と班員。
全く、ろくなもんじゃねえ。

Ah!おめーのことなんか、もう、知るか!
おめーのことなんか、知らねえ。

この腰パン野郎。
ピカチュウのトランクスが丸見えだぞ。
前を出すなよ。

Ah!おめーのことなんか、わからねえ!
おめーのことなんか、知らねえ。

次に俺を遣い物にしたら、
今度はハムカツも追加だぞ。
ジュースはよく冷えてる自販機で買えよ。
部活の先輩に教わってねえのか。

おめーのことなんか、知らねえ。
おめーのことなんか、知らねえ。

Ah!俺は、もう。

おめーのことなんか、知らねえ。
おめーのことなんか、知らねえよ。

夕闇のプールサイド(1998年)

君の蹴ったボールがサッカーゴールの
ネットを揺らした。
ゴールの裏を歩いていた僕。
ふっと横を向いた。
遠く目が合った君と僕。
体育館と校庭に挟まれた
裸の桜並木の舗道。
いつもは通らないのに。
あれが僕らの再会だったね。

小学校の餅つき大会。炊き上がる
までの尻尾取りゲーム。
目の前で背を向け佇んでいた君。
すっと尻尾を抜こうとした。
咄嗟に手を掴まれた僕。
プールの出口に連れて行かれ
殴られた休み時間。
目に涙を溜めた僕に、
「泣き虫」と言い捨てて行った。

「久しぶりだな」
暗くなった校舎を出た僕に
声をかけた君。
「さようなら」
目を逸らして立ち去ろうとした
僕を引き止めた。
「待てよ。一緒に帰ろう」

公園のバックネットの下。
コンクリートの裏側で隠れるように
身を寄せ合った。君がくれた
温かい缶ココア。時間(とき)の経過が
僕らを打ち解けさせた。
冷たい風の流れる暗い夕方。
目の前のユーカリの木の上に見える
満月は、とても綺麗だったね。
「あの日」、君が僕の頬に叩き付けた
凍ったように冷たい手の平は、
本当にあたたかくなっていた。


教室で「幽霊部員」の同士たちと語り合う
放課後。窓の外には校庭を走る君。
夕闇の帰り道、小学校のパドロックの
壊れたプールの入口。
両足を抱え込む僕の頬は、剥き出しの素肌。

「今だけ交換しよう」
僕の黒い縁のメガネを抜き取る。
君の顔の下を包(くる)んでいた、
真新しいネックウォーマー。
代わりに僕に被せた。
「似合わないね」
と、笑い合う。
冷たい風から護るように、
君は華奢な僕を抱き寄せた。
「あの日」の場所に降りて、
君は突然に詫びたね。
「ごめんなさい。許してください」
と、僕に触れることもなく。

いきなり賢くなって、どうしたの?
後輩の僕に、敬語なんか遣わないで。
苦くて咽(むせ)た。せっかくの真新しい
ネックウォーマーを汚してしまったね。
大きく肯いた僕。君を宥めるように。
「絶対に内緒だからな」
ならば、冷えた僕の頭の中で凍り付いて
いる記憶をその両手の熱で溶かして、
忘れさせてしまって。
「あの日」のことと一緒に。

リンゴの木(2011年)

中学校の卒業式の日に君に渡したリンゴの木。
あれから何年もの月日が流れ、立派に成長をしているのだと思う。
人は「普通じゃ物足りない」という。
だけど、ぼくは「普通」がいい。「普通」に憧れている。
ぼくには「普通」が叶わなかった。
習い事をしたり学習塾に行ったり、
部活やサークルや恋愛・・・
挫折と失敗、苦悩と屈折を積み重ね、
これ以上落ちることはないところまで落ちて、
この世の地獄の底まで見てきた。
そこから這い付くようにもがき上がって、今日の自分がいる。
ぼくのリンゴの木は枯れてしまった。
君の実家の庭に植えられているリンゴの木の幹と、
決して甘くうまいとは言えない一粒一粒の実には、
ぼくの人生が詰まっているのだよ。
美乙女浄愛(みおとめきよなり)です。本名は福田稚鶴と申します。主に小説で創作活動を行っていますが、松谷彩翔(まつたにあやと)として詩(詞)も著しています。自作詩公開ブログ『彩翔イズム』https://t.co/DBbK7AMj9o
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