君の蹴ったボールがサッカーゴールの
ネットを揺らした。
ゴールの裏を歩いていた僕。
ふっと横を向いた。
遠く目が合った君と僕。
体育館と校庭に挟まれた
裸の桜並木の舗道。
いつもは通らないのに。
あれが僕らの再会だったね。

小学校の餅つき大会。炊き上がる
までの尻尾取りゲーム。
目の前で背を向け佇んでいた君。
すっと尻尾を抜こうとした。
咄嗟に手を掴まれた僕。
プールの出口に連れて行かれ
殴られた休み時間。
目に涙を溜めた僕に、
「泣き虫」と言い捨てて行った。

「久しぶりだな」
暗くなった校舎を出た僕に
声をかけた君。
「さようなら」
目を逸らして立ち去ろうとした
僕を引き止めた。
「待てよ。一緒に帰ろう」

公園のバックネットの下。
コンクリートの裏側で隠れるように
身を寄せ合った。君がくれた
温かい缶ココア。時間(とき)の経過が
僕らを打ち解けさせた。
冷たい風の流れる暗い夕方。
目の前のユーカリの木の上に見える
満月は、とても綺麗だったね。
「あの日」、君が僕の頬に叩き付けた
凍ったように冷たい手の平は、
本当にあたたかくなっていた。


教室で「幽霊部員」の同士たちと語り合う
放課後。窓の外には校庭を走る君。
夕闇の帰り道、小学校のパドロックの
壊れたプールの入口。
両足を抱え込む僕の頬は、剥き出しの素肌。

「今だけ交換しよう」
僕の黒い縁のメガネを抜き取る。
君の顔の下を包(くる)んでいた、
真新しいネックウォーマー。
代わりに僕に被せた。
「似合わないね」
と、笑い合う。
冷たい風から護るように、
君は華奢な僕を抱き寄せた。
「あの日」の場所に降りて、
君は突然に詫びたね。
「ごめんなさい。許してください」
と、僕に触れることもなく。

いきなり賢くなって、どうしたの?
後輩の僕に、敬語なんか遣わないで。
苦くて咽(むせ)た。せっかくの真新しい
ネックウォーマーを汚してしまったね。
大きく肯いた僕。君を宥めるように。
「絶対に内緒だからな」
ならば、冷えた僕の頭の中で凍り付いて
いる記憶をその両手の熱で溶かして、
忘れさせてしまって。
「あの日」のことと一緒に。