ブラウン管の中は雪深い長野の
スキーのジャンプ台。ハラダの涕(なみだ)と
「立て!立て!」の実況。 
久しぶりに部活の練習に参加した僕。
不器用だが練習熱心な君。
雪が降りだし、練習は終了。
同じ南の方角に帰る。学年が違うから、
部活でしか会わない。
自ずと会話は弾んで、粉雪の舞う広い道路を
2人漕ぎ進む。髪の毛を白くしながら。

「あれが俺の家だよ」
指さす葡萄(えび)色の家屋。こんなに近いのに、
小学校では会わなかったね。
それからずっと帰り道をともにした。
四度の転校、親の離婚と再婚。兄弟のこと。
君が打ち明けてくれたことはどれも、一言では
言い尽くせないことばかりだったね。
でも、明るく振る舞う君に、僕は勇気をもらい
胸が痛かった。

君と毎日一緒に帰ったことを、僕は忘れない。
あの雪深い、灰色の季節は。

降り積もる雪。悲しみの蓄積のように。
やがて降りそそぐ陽の光は、その塊(かたまり)を溶かし、
地へ押し込んで、運河へ流すのだろう。


膝の高さにまで達した雪。迎えは来ない。
朝は走っていたバスもストップ。
スポーツシューズを濡らしながら、
長い距離を歩いて帰ったね。
「寄っていけよ」
と振る舞ってくれた、紅茶の温かさ。
2人で渡した卒業記念樹。ピアノの『My Graduation』が
流れる中で。
完全に「幽霊」になった春の僕。
進学に悩むようになった夏の君。
僕たちの距離は広がった。

君が学校を巣立ち半年した中間テスト。
試験日に欠席し会議室で1人受ける。
後の客は、1年生の小柄な男子。
難しい問いにブツブツ反論する。
集中を損なう僕。
でも、聞き覚えのある声に、覗き見る
パーテーションの向こう。
ジャージの同じ場所に小さい穴。
「もしかして・・・」
声をかけ、2人早くテストを終わらせては、
語り尽くした1日。
無邪気なところがそっくりだな。
「兄ちゃんは、どうしているんだ?」
「部活で毎日帰るのが遅い。土日も早く出ていく」

君と毎日一緒に帰ったことを、僕は忘れない。
あの雪深い、灰色の季節は。

降り積もる雪。涕の塊のように。
やがて降りそそぐ陽の力は、その冰(こおり)を粉砕し、
虹色に昇天させて、歓喜へ導くのだろう。

弟の横顔を見て思い出す、君のおもかげ。
南の丘を眺めて思い出す、あの雪の日。

また、いつか会おう。初めて雪の降った、次の日にでも。